このたび，初代会長の呉人惠先生の後を継ぎ，会長を務めさせていただくことになりました。もとより，このような重職を担うには実力も能力も備わっておらず，かえって会員の皆様にご迷惑をおかけするのではないかと躊躇う気持ちが強いのですが，皆様のお力を借りながら，本学会の発展に尽くして参りたいと思っています。

本学会は，北東アジアから北アメリカに至る環北太平洋地域で話される言語を対象として，調査研究の促進，その成果の発信を主たる目的としています。とりわけ同地域には，話者が少数の高齢者に限られ，その存続が危ぶまれている言語が数多く存在します。そうした言語の記述研究は，何をおいても急務ですが，新型コロナウイルスの感染拡大や政情不安により，思うように現地調査ができない状況がここしばらく続いています。しかし，そうした中にあっても，会員の研究の発表の場である大会はオンラインあるいはオンラインと対面併用のハイブリッド式などによって継続的に行なわれ，2021年度は国際シンポジウムを開催することができました。また，本学会の機関誌『北方言語研究』には毎号多くの論考が寄せられるなど，会員の皆様の成果が陸続と発信されているといえます。

このように本学会の目的が着実に達成されている一方，これから取り組むべき課題もいくつかあります。例えば，これまでなされてきた個別の言語研究の蓄積をもとに，環北太平洋地域という視点から，そこで話される言語間の接触，具体的な影響関係など，言語学の立場から如何なる歴史的事実があったのかを明らかにすることも課題の一つとしてあげなくてはなりません。言うまでもなく，その背後に埋もれてしまった多くの事実があることを思えば，その解明には自ずと限界と困難を伴いますが，この地域の言語の間で何があったのかを解明することは，畢竟，その言語を話す人々の歴史を明らかにすることにも繋がり，おそらくそこに言語学がなし得る貢献があるといえましょう。北方の言語の研究に携わる集団として，いずれは取り組むべき課題と考えます。

本学会は，発足してまだ日が浅いのですが，それにも拘わらず，発足当初より，会員数が大幅に増えました。特に，大学院生の皆様を中心とする若い方々の会員が増えたことは，本学会にとっても喜ばしいことです。また，海外の会員も増え，本学会がますます国際性を帯びつつあることも付け加えなくてはなりません。

日本における北方の言語研究は，日本の近代言語学の歩みそのものといっても過言ではないほど，長い伝統と歴史があります。本学会がその学統を受け継ぎ，更なる発展に寄与するよう，会員の皆様とともに力を尽くしていきたいと思っています。何卒よろしくお願いいたします。