第1回(2022年度)
受賞者
植田 尚樹 氏
受賞論文
“The Merger between /ʊ/ and /o/ in Khalkha Mongolian: A Study Based on an Acoustic Analysis and a Perceptual Experiment”
授賞理由
本論文は,現代モンゴル語ハルハ方言の母音体系において母音/o/から母音/ʊ/への合流が生じたことを,実験音声学的手法により実証的に解明したものである.筆者はまず,両母音の対立および音声特徴に関するこれまでの記述的・音響音声学的な研究を検討し,問題点を明確に示している.その上で,音響分析と知覚実験を通して,短母音と長母音の両方で/o/から/ʊ/への合流が起こったことを明快な論旨により結論づけている.
選考委員会では,自ら収集した一次資料に基づき,周到に準備された2種類の実験により新たな事実を明らかにしている点が高く評価された.女性母音/o/から男性母音/ʊ/への合流現象は,モンゴル語の重要な形態音韻現象である母音調和とも関わるものであり,関連する研究領域への波及効果も期待される.音声産出実験の被験者が1名のみである点は若干気がかりであるが,9名の母語話者を対象とした知覚実験によって十分に補完されていると判断できる.
授賞式
授賞式は,2022年11月26日(土)に北方言語学会第5回大会において行われました.授賞式では日本北方言語学会の堀博文会長より賞状と記念品(受賞者氏名の刻印いり名刺入れ)が贈呈されました.
受賞者のコメント
このたびは,記念すべき第1回の津曲敏郎賞を賜り,大変嬉しく光栄に存じます.選考に携わってくださった皆様,査読・編集にあたってくださった方々,執筆にあたりコメントをくださった学会員の皆様,そしてもちろん,津曲敏郎先生に深く感謝,御礼申し上げます.
私は津曲先生から直接ご指導を受けたことは残念ながら無いのですが,津曲先生との思い出としてはまさに『北方言語研究』の編集が挙げられます.『北方言語研究』第10号に拙稿を投稿した際,編集にあたってくださったのが津曲先生でした.そのとき,図の配置など主に形式の面で多々ご指摘を受け,著者は編集作業の負担にならないように配慮すべきだというお言葉を賜りました.そこで,論文というのは多くの方々のご尽力があって世に出ているものであり,内容はもちろん形式にも気を配らなければならない,ということを改めて認識しました.論文を書くということがどういうことなのかを改めて実感した,と言っても良いかもしれません.
そんな経緯があって,このたび津曲敏郎賞を賜るということで,この受賞は「もっとしっかりやりなさい」という津曲先生からの叱咤激励だと捉えております.この受賞に恥じぬよう,これからも精進して参りたいと存じます.
今後ともご指導のほど,よろしくお願い申し上げます.
公開日: 2022/12/12